食道裂孔ヘルニアに対する手術の効果と目的について

内視鏡外科 部長 竹村 雅至

内視鏡外科部長の竹村と申します。

食道裂孔ヘルニアは日常よく遭遇する疾患で、内視鏡検査を受けられた方の約半数に診断される非常に頻度の高い病気です。しかしながら、単に食道裂孔ヘルニアがあるだけで症状のない方も多く、実際に治療を必要とする方は比較的少数です。

食道裂孔ヘルニアによる主な症状は食道と胃のつなぎ目が緩むことで胃から食道への逆流を防止する機能が低下し、食道に胃酸逆流が起こることによって生じる症状であり、逆流性食道炎と同様です。主な症状は胸焼け・吞酸ですが、その他にのどの詰まり感、突発的な胸の下の方(心窩部)の痛み(非心臓性胸痛)、げっぷが多い、慢性に持続する咳や喘息様の発作など多彩な症状を呈します。症状がある食道裂孔ヘルニアに対しては逆流性食道炎と同様の治療法が適用となり、上半身を高くして寝る、食事を食べ過ぎない、体重を落とす、腹圧を上げない等の日常生活の注意点と、薬による内科的治療がまず行われます。薬による治療は胃酸を抑え、逆流してくるものの刺激性を抑えることで、胸やけを抑えることを目的としています。さらに、胃からの食物の排出を早くして、逆流物の量を減らす薬も併用することもあります。

食道裂孔ヘルニアに対する治療

  • ■日常性格の改善
  • -上半身を高くして就寝する
  • -食事を食べ過ぎない
  • -体重を落とす
  • -ベルトなどでお腹をしめすぎない
  • ■薬による治療
  • -胃酸抑制剤
  • -胃排出機能亢進薬
  • ■外科的治療:腹腔鏡手術


これらの薬により症状の多くは改善しますが、食道裂孔ヘルニアの方の問題点は食道と胃のつなぎ目がゆるんでいるため、逆流そのものを抑えることが難しいというところにあります。このため、逆流物の刺激性が低下しても体内では逆流は起こっているため、喉の部分で逆流を抑えようとする反射が起こり、喉の詰まり感として自覚します。さらに、逆流が起こった時に突発的な胸痛が生じることもあります。この胸痛は非心臓的胸痛とよばれ、症状からは心臓からの発作との区別が難しいとされています。胸痛のため循環器内科や内科を受診されることが多いですが、心電図や心臓の検査をしても異常がないと診断された場合の原因としては食道に原因があることが多いとされています。逆流が抑えきれないことによる症状は内科的な治療では限界があります。このため、薬で症状が改善しない方では逆流を物理的に抑制できる外科的治療が適応となります。

食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療は、胸に脱出した胃を元の位置にもどし、食道と胃のつなぎ目を逆流が減るような形に作りかえ、さらに再度胃が胸に脱出しにくい状態にする操作を行います。以前はこれらを開腹で行っていましたが、最近では傷の小さい腹腔鏡手術で行われることが主流になっています。当院では2017年より食道裂孔ヘルニアに対して腹腔鏡手術を行っており、これまでの手術件数は150例以上になっています。癌の手術に比べて件数が少ないと思われるかもしれませんが、この数字は関西圏のみならず全国的に見ても非常に多い手術件数で、治療成績も安定しており安全に施工可能となっております。

食道列孔ヘルニアに対する外科的治療とその効果

  • ■胸に脱出した胃を元の位置にもどす。
  • ■食道と胃のつなぎ目を逆流が減るような形に作りかえる。
  • ■再度胃が脱出しにくい状態にする。
  • ■これらの操作を腹腔鏡下に行う。
  • ■物理的に胃液の逆流を抑えることで、様々な症状を抑えることが可能になる。

食道裂孔ヘルニアを有しておられる方は突発的な嘔吐、胸痛、喉の違和感など不快な症状を持っておられる方が多くおられます。これらの症状は薬によってもなかなかコントロールできないこともあり、しかも長期にわたって悩まれている方が沢山おられます。当院外科では食道外科専門医・食道科認定医が逆流性食道炎を含む食道の疾患に対して診療にあたっており、喉の違和感や突発的な嘔吐、心臓が原因でない胸痛など食道に由来する症状でお悩みの方は外科受診をいただければ症状緩和の一助になると考えています。


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